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加藤薫 『骸骨の聖母サンタ・ムエルテ』 [書誌情報]

本研究会会員、加藤薫(神奈川大学)著『骸骨の聖母サンタ・ムエルテ: 現代メキシコのスピリチュアル・アート』(新評論、2012年)が出版されました。
以下に内容をご紹介します:

メキシコという国の美術に魅せられ、通いはじめて40年近くになる。その間、大
きな社会変動を何度も目撃してきたが、なかでも2006年末に発足したカルデロン
現政権が推進する麻薬撲滅作戦と、それに抵抗する麻薬犯罪組織との間の抗争は、
多数の一般市民をも巻き込むきわめて凄惨な事態を生み出し、痛ましさにたえな
かった。都市部はいまも不穏な空気に包まれている。  このような時期に、噂
でしか知らなかった、非常に興味深い信仰集団と美術の現象に出会うことになっ
た。「骸骨の聖母」(サンタ・ムエルテ、直訳すれば「死の聖母」)がもたらす
奇蹟を信じる人々と、かれらが奉じる聖母像である。かつては犯罪者のカルトと
され、秘教的な位置づけだったこの信仰が、いまや信者300万人を超える一大勢
力となっており、その図像は街路に溢れ出している。政府の麻薬撲滅作戦により、
官憲に追われた麻薬組織が全国に分散したことでカルトが拡大した、という分析
も可能であろう。しかしそれだけでは説明しきれない。この現象は、「表社会」
のシステムに何か大きな亀裂が生じ、民衆がもはや法もモラルも伝統的な宗教を
も超えた、魂の救済の新たな方法を希求していることを示唆するものではないだ
ろうか。  サンタ・ムエルテが美術現象として興味深いのは、伝統的な宗教美
術に見られる図像規範というものがまだ無く、民衆の日々の信仰活動の中で新し
い図像が考案され、取捨選択されながらいくつかの定型が残ってゆくというプロ
セス、それが今まさに進行中であることだ。そのプロセスを追うことには、いわ
ば創造の現場に立ち会う面白さがある。しかもそれがプロの美術作家の仕事でな
く、無名の民衆たちの創意工夫によるものである点も興味深い。  多彩でキッ
チュな図像に込められた、正統な美術の世界とは無縁な民衆の大胆な発想は、世
俗的欲望と生の活力に満ちており、着せ替え人形やゴス・ファッションと通底す
る要素も見られる。この「キモかわ」図像を信奉する心性の奥には何があるのか、
本書を通じて読者の皆様とともに考えてみたい。(かとう・かおる)

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